はじめに
システム開発の成功には、要件定義の重要性がよく語られますが、実際にシステム開発が失敗する原因の大半は、要件定義の段階での誤解や不十分な理解に起因しています。ここで言う「システム開発の失敗」とは、具体的には以下の3つの要素、すなわち「品質(Q)」、「予算(C)」、「納期(D)」のいずれか、または複数を顧客と合意した内容通りに満たせない状況を指します。
- Q(顧客と合意した品質)
- C(顧客と合意した予算)
- D(顧客と合意した納期)
このような失敗を防ぐためには、要件定義の段階でしっかりとスコープを明確化し、顧客と合意を得ることが極めて重要です。本記事では、要件定義における重要なポイントと、その実践方法を紹介します。
要件定義の重要なポイント
要件定義の成功を左右するポイントは、主に次の2つです。
- 顧客にスコープを正確に認識してもらうこと
- 必要な予算と納期について合意を得ること
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1. 顧客にスコープを認識してもらうこと
システム開発において、まず最初に重要なのは「何を開発するのか?」というスコープをしっかりと定義することです。このスコープを曖昧にすると、後々の問題に繋がりやすくなります。具体的に決めるべきスコープは次の通りです。
- 利用者:システムを使用するユーザは誰か?
- 業務・ユースケース:システムが対応する業務やユースケースにはどのようなものがあるか?
- データ連携:どのデータを、どのシステムと連携する必要があるか?
- 機能数と内容:画面機能、バッチ処理機能、インターフェース機能、ジョブの数とその内容は?
これらの項目について、顧客がしっかり理解し、納得することが求められます。そのためには、以下のドキュメントを活用して、顧客と綿密なすり合わせを行いましょう。
- 業務フロー:誰がどの業務を行う際にどの機能を使用するかを示すもの。例えば、スイムレーンチャートのような形式で表現できます。
- 機能一覧:画面、バッチ、インターフェース、ジョブなど、すべての機能を列挙し、それぞれに開発難易度を設定します。
- 要件一覧:業務要件やシステム要件を詳細に記載し、機能一覧の難易度に影響を与える要素を明示します。
- DFD(データフロー図):機能とデータの関連性を示し、システムの全体像を明確にします。
- 画面イメージ:レイアウトや操作フローが視覚的に理解できるイメージを提供します。
これらの資料を元に、顧客との間で十分な確認と合意を得ることが、後々のトラブルを防ぐために不可欠です。
2. 必要な予算と納期を合意すること
次に重要なのは、スコープが決定した段階で「予算」と「納期」を具体的に定め、顧客と合意することです。
予算については、上記の機能一覧や要件をもとに、どの程度の工数が必要となるかを計算します。例えば、各機能の開発難易度に応じた工数を見積もり、さらに会議や管理作業、移行作業にかかる工数を積み上げて、最終的な見積もりを作成します。見積もりの根拠をしっかりと説明できるようにすることで、顧客からの信頼を得ることができます。
また、見積もりの際には「根拠」を明確に示すことが非常に重要です。もしも見積もりを提示した際に「高い」と言われた場合でも、「この機能を削ることでコストを削減できます」といった交渉が可能になります。根拠を持った見積もりを提示することで、値引きや無償労働を回避し、適切な費用でのプロジェクト運営が可能となります。
納期については、最終的にサービスインしなければならない日程が決まっている場合、それに向けて逆算して計画を立てることが求められます。納期に間に合わせるために、スコープを減らすか、機能の優先順位を見直す必要が出てくることもあります。そのため、サービスインの日程を基に、各種イベント(例えば、ユーザ教育や稼働判定)を含めたスケジュールを顧客と合意し、適切な進行を確保しましょう。
まとめ
システム開発の成功には、要件定義段階での明確なスコープ設定と、顧客との合意が欠かせません。顧客としっかりコミュニケーションを取り、予算や納期、スコープについて詳細にすり合わせることで、開発の後半におけるトラブルを防ぐことができます。見積もりの根拠を明示し、プロジェクトを進めるための確実な基盤を築きましょう。
今後、さらに詳細な解説や補足が必要な場合には、別の記事として追記していく予定です。システム開発の要件定義をしっかりと押さえ、成功に導くための第一歩を踏み出しましょう。
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